どちらのニスが良いのか、またニスの成分について、その疑問はバイオリン製作家にとって永遠のテーマともいえる事でしょう。
『海峡を渡るバイオリン』のモデルとなった陳昌鉉氏は、 この謎に迫る為、プロが持つストラディヴァリウスに触れるだけでなく、知りたいとい一心でバイオリンの表面を舐めてしまったことは有名な話であります。
バイオリンの素材とニス
バイオリンの表材はスプルース(松)材で、裏や側面、ネックはメイプル(楓)材、指板等はエボニー(黒檀)等で作られています。いずれも十分に乾かしたもので、木目や杢目が美しいものがよい素材といわれます(一概にとはいえませんが)。
特に木目を美しく出すためにニスで表面加工されています。
一般的には10回~50回の塗装が行われ、あのアメ色のきれいな塗装となるのです。
そこで、使用するニスに、オイルニスとアルコールニスの違いがあるのです。
基本的にはニス成分を溶解するのがオイル(テルピン油)か、アルコールかの違いとなります。
オイルニスとアルコールニスの違い
簡単に言うと、オイルニスは柔らかく仕上がり、アルコールは硬い仕上がりで、その違いがオイルニスとアルコールニスの違いとされています。
ですが、オイルニスの方が高級で、アルコールニスが劣るというわけではありません。
風合いは個人的な好みですし、作業の正確さや塗装回数の手間暇の違いが元来の塗装の良し悪しに反映されるものです。
テルピン油はニス(樹脂)の溶解が難しく、ニスの種類も限られますが、乾燥後も油が樹脂内に残るため柔らかく仕上がります。
ただしキズを受けやすく、湿気が強いとカバーに付着してしまうこともあります。
逆にアルコールは全部蒸発して樹脂だけの皮膜が残って硬くなりますが、キズ付きにくい利点があります。
作業工程で見ると、「調合」が難しいがよく延びて「塗装」しやすいのがオイルニスで、「調合」は簡単だが乾燥しやすいため「塗装」技術が必要なのがアルコールニスとなります。
これらの特長から、製造時はオイルニスを使う場合が多く、修理ではアルコールニスが使われる傾向があります。
オイルニスの特徴
- 塗装作業が簡単
- 柔らかく仕上がるがべたつきやすい
- 使えるニスの種類が少ない
- 調合作業が大変
アルコールニスの特徴
- 塗装が難しく技術が必要
- 使えるニスの種類が多い
- 調合が比較的簡単
- 柔らかいニスが難しい
- 乾きやすい
オイルニスとアルコールニスはどちらが音がよいか
バイオリンの表面材に使われるスプルースはやわらかい素材で、その点がバイオリンのように弓を使う弦楽器(擦弦楽器)にはよいとされています。
逆に表面が固くて反発性が強い素材はギター等のように指等ではじく弦楽器(撥弦楽器)に向くとされています。
それからすれば、柔らかいオイルニスの方がよいのではないか?と思いがちですが、明快なデータは存在しません。
より柔らかい表面材であれば多少硬めのニスの方がよいかもしれず、世界の名器とされるバイオリンの表面加工がアルコールニスであったとの報告もあります。
特にアルコールニスは柔らかい樹脂を溶解させることもできます。技術を要すると思いますが、柔らかい風合いにすることも可能です。