工房に遊びに来る子供達から「おにいさんは、どうしてユラユラ揺れながら弾くの?」と聞かれたことがありました。
皆さんのなかにも「バイオリニストがユラユラと揺れながらバイオリンを弾いている姿に疑問を感じています」という方も多いかと思いますが、さて、あれはいったいなぜでしょうか。
実は、あの揺れは、決して見た目だけのパフォーマンスのために揺れているわけではありません。
こちらでは、その「揺れ」について解説していきたいと思います。
基本的な動きの法則
実は、演奏の際の「揺れ」には、一定のルールのようなものがあります。
とはいっても堅苦しい決まりのようなものではありませんが、その動きには、おおよその法則のようなものがあります。
よくよく見てていただくと、弓の動きとは反対向きに体を動かしているのに気づかれた方もおられるかもしれません。
実は弓だけの動きではできない発音を補っているんです。
演奏に揺れを取り入れる理由
この「揺れ」を取り入れる理由として挙げられるのは、大きく二つあり、実はこれも重要な技術の一つと言えます。
- より繊細なボウイングを手に入れるため
- より感情を曲に織り込むため
繊細なボウイングを手に入れるために
バイオリンの演奏には、強くもなく弱くもなく、硬くもなく柔らかくもなく、高すぎず低すぎず、と言った曖昧な部分を狙った表現がいくつも存在します。
その繊細な表現のためには「揺れ」が欠かせない要素となっています。
バイオリンを弾く際には「肘から先で弾く」ことを求められる場合が多いですが、特にボーイングでは手先だけで弓を弾くだけでは美しい音を出すことができません。
右肘から先で作り上げるボウイングだけではうまく先生なコントロールが出来ない部分を、ボウイングと体との相互の動きを合わせて細かな調整を行うことで、より美しい音色を奏でることができます。
一生懸命音を出そうと思って弓を強く押しつけても好ましい音は出ませんし、指先だけで細かな動きを完全に表現するのは難しいものです。
目一杯アクセルを踏んでも車の加速度には限界があるように、バイオリンに相応しい程度の弦の抑え方や弾き方があります。
楽器は支えながらも、だらりと力を抜いて腕の重みやなどの重力を感じるイメージで演奏すると、よりいい音がなります。
その絶妙さが音の明暗を分けると言っても過言ではないでしょう。
つまり、バイオリンは手先でなく体で弾く楽器であり、体全体で演奏しながら、その全身の動きを最終的には指先に伝えていくといったイメージです。
感情を曲に織り込むため
上記は表現の方法ですが、その前提条件として、感情を織り込むことを忘れてはいけません。
感情を織り込むためには、「表情」や「揺れ」など、体も一体になって音楽に入り込むことが大切なポイントです。
そのためにも、前提的な基礎練習は勿論ですが、感情表現をするためには、まずその曲を知り、その曲の世界を想像することが大切です。
そのうえで、表現の一つとして取り入れるものに「揺れ」があるとお考え下さい。
そのために必要なことが下記の3点となります。
- 演奏を聴いて理解する
- 声に出して歌ってみる
- 曲の世界を想像する
「先入観を持たずに表現するために他人の演奏を聴かないように」と言う方もいますが、多くの素晴らしい奏者の演奏を聴き、世界観のベースサンプルをたくさん吸収することで、自身に合った表現を見出すことが出来るのも事実です。
勿論、単一の演奏ばかりを聞きこんで、それにばかり傾倒することはおススメしませんが、表現の手段を多く知ることは感情表現のベースアップに繋がります。
それらの演奏から想像できる世界を思い浮かべながら、声に出してみたり、鼻歌を歌ってみたり、そして、前段の手段を用いて演奏表現に落とし込むことが大切です。
こうした感情の表現については、下記の記事にも解説していますので、合わせてお読みいただけますと幸いです。