バイオリンは16世紀の北イタリアで発明された楽器です。
原型となったのは中東のイスラム圏で使用されていた擦弦楽器(弦をこすって音を出す弦楽器)のラバーブと言われますが、バイオリン自体は、それ以前の弦楽器の改良発展型ではなく、最初から完成した形を持って創られたものでした。
そのため、現代に至るまでその形態は大きく変化することはありませんでした。
しかし19世紀に入り、当時の音楽の流行を取り入れるために大きく4点の改良が行われました。
バロックバイオリンの特徴
「バロック」という言葉が指し示す通り、バロックバイオリンはバロック音楽の時代に用いられた楽器でした。
バロックバイオリンで用いられているガット弦は、現在の巻線と比較すると柔らかく素朴な音色を特徴としており、室内楽や協奏曲などのアンサンブルにおいては、他の楽器とより調和した音色となっています。
また、顎当て・肩当てがないことで、自由度が高く緊張しない自然な演奏がしやすいことも特徴です。
このような特徴を持つバロックバイオリンは、現代でも、バロック時代の音楽を始めとする古典音楽に好んで用いられています。
ただし、ガット弦はチューニングが難しいことや、顎当て・肩当てがないことで演奏姿勢が保ちにくいなど、初心者には扱いが困難な楽器でもあり、中上級者向けとされています。
現代のバイオリンはバロックバイオリンの改良版
実は、元はバロックバイオリンとして創られたストラディバリやガルネリの名器も、現在ではその殆どがモダンバイオリンに改良されて使用されています。
これは、知らない方も非常に多い事実です。
あの名機たちも、実はバロックバイオリンの外見をしていたのです。
その違いは、下記の通りで、その改良が行われる以前のバイオリンを「バロックバイオリン」、改良後のバイオリンを「モダンバイオリン」と呼びます。
いわば、「バロックバイオリン」はバイオリンの原型と言えるでしょう。
改良点1:「指板(フィンガーボード)」の延長
1つ目の改良点は、弦を張る「指板(フィンガーボード)」をそれまでのバイオリンよりも長く、胴の中央部辺りまで延長したことです。
これは、バイオリンの音域の幅を広めること、特にE線の高音の幅を広めるための改良でした。
改良点2:「駒(ブリッジ)」の高さを増す
2つ目の改良点は、バイオリンの4本の弦を支える「駒(ブリッジ)」を高くしたということです。
駒を高くすることで、音色をより輝きのあるものとし、音量を上げることが可能となりました。
改良点3:「顎当て・肩当て」の追加
3つめの改良点は「顎当て」「肩当て」が追加されたことです。
顎当て・肩当てが追加されることで、演奏中に楽器をしっかりと保持できるようになり、より激しい演奏にも耐えるようになりました。
改良点4:弦の変更
改良以前のバイオリンには、おもに羊の腸を素材にした「ガット弦」という弦が使用されていましたが、改良後のバイオリンでは、このガット弦に細い金属線を巻きつけた「巻線」が使われるようになりました。
これもより大きく、強い音を出すための工夫です。
参考にしていただけましたでしょうか。
バイオリンは、現代の形状に至るまでに様々な変化を遂げてきています。
ガルネリやストラディバリの名機たちも、作られてから、引き継がれている間にカスタマイズされながら、進化したものもあるというのですから、驚きです。
私もバイオリン製作や修復の世界に足を踏み入れたころは、全く知らない事実に驚きました。