バイオリンに欠かせない木目の要素
美しい弦楽の音色を奏でる事で有名なバイオリンですが、その造形の美しさに魅せられる人も少なくありません。
滑らかなボディを構築する木材、その艶やかな木目は、一つとして同じものは存在していません。
特に職人の手ずから作られるバイオリンには、職人たちのこだわりが込められています。
木目で判る、質の違いが特徴的な表板
機能面では、弓で引いて生じた音を響かせる構造となっているのがバイオリンの本体部分です。
この本体部分は弦の張られた表板、裏面を覆う裏板、表板と裏板の側面側を塞ぐ側板で構成されています。
ここにバイオリンに適した良質な、種類の違う木材を用いる事で、振動による音色の響き方は大きく変化します。
一般的にこの表板にはスプルース材が用いられています。
特にバイオリン職人の観点において、良質なスプルース材には指標となる木目とは別の模様、ハーゼが存在しています。
表板のハーゼとは
ハーゼとは、スプルース材の木目の流れに交わるように垂直に入った模様を指します。
木材の木目そのものは密度が高い、つまり冬目が細かいものが良木とされています。
その木目にハーゼが重なった良質な松材は「ハーゼ・フィヒテ」と呼ばれ、美観的にも木材としての強度的にもとても優れた木材として重宝されています。
ハーゼの語源
「ハーゼ」、「ハーゼ・フィヒテ」とはドイツ語の言葉です。ハーゼはウサギを指し、フィヒテは唐檜(トウヒ)、マツ科の常緑高木を指します。
何故この木目に走る横模様をウサギと呼ぶのかは諸説あります。
模様がウサギの足跡に似ているから、或いはハーゼは元々「ハーゼルヌス(ハシバミの樹)の事ではないかという説もあり、はっきりと具体的な語源は判っていません。
ハーゼがある木材は良材判定、しかし…
木目に対して直角なハーゼ模様があることで、その木材はハーゼ模様方向に対して折り曲げる強度が高くなっています。
職人的な観点では、このハーゼ・フィヒテを用いる場合は硬い音になることから少し薄めに作る、とされています。
ハーゼ模様を愛好する職人・弾き手も居る一方で、ハーゼさえあればいいという観点で、冬目の粗いハーゼ模様入りの安い松材で量産される事もあります。
良木の指標の1つであるハーゼ
- ハーゼとは木目とは別にある模様のこと
- 語源はドイツ語。良質な木材である指標の1つ
- ただし、素人目ではハーゼの有無で良木判定は難しい
ハーゼ・フィヒテの質の違いを判断できるのは、冬目の細かさ、その重さや作りに詳しい職人独自の観点です。
しかし手元にバイオリンがある人は、改めてこのハーゼの有無を見てみる事で、思わぬ模様の美しさに気づける可能性があります。